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NTGを形づくる病巣は2つ存在する

正常眼圧緑内障(NTG)の病巣の1つは、中枢神経系を構成する2種類の細胞の不調(傷害)にあります。その2種類とは、神経細胞(ニューロン)とグリア細胞です。ニューロンは、細かく枝分かれした樹状突起(アンテナ)と長い軸索(伝導路)を持ち、アンテナで受け取った情報を処理して、軸索を通して情報を出力します。グリア細胞は、このニューロンの活動をサポートする細胞であると考えられています。電力会社に例えると、送電線がニューロンで、それを保守管理する担当社員がグリア細胞というイメージです。NTGでは、ニューロンとグリア細胞が傷ついたことで、情報である光が脳まで伝わらない、伝わりにくくなる病気です。このように、NTGの病巣は中枢神経系に存在していて、眼球だけではないのです。

2つの病巣は「篩状板(しじょうばん)」です。この篩状板は眼球すぐ後方で、視神経と眼球が繋がる部分にあり、視神経を支える網目状のコラーゲン組織です。そのため患者さんには、篩状板のことをハニカムリング(ハチの巣の輪)と説明しています。最近は、スウェプトソースOCT(光を用いた断層画像化法)によって、篩状板の厚みを把握できるようになりました。この検査機器を使って篩状板の厚みを調べてみると、「正常者」は約0.28mm、「超早期緑内障(視野異常が現れる前の前視野緑内障)」は約0.26mm、「緑内障」では約0.23mmという結果で、緑内障の病状が進行すると明らかに篩状板が薄くなっていることが分かります。緑内障が進行すると篩状板の中央は、ハンモックに人が寝た時のように下に深くたわみ、周辺組織(細胞外マトリックス ; ECM)も地盤沈下のように深く陥没していくのです。こうした状況になると、ハニカムリング内でニューロンの軸索線維は首を絞めつけられているような状態(軸索絞扼)となり、ニューロンの先端まで栄養が届かなくなって神経障害が引き起こされるのです。光の情報が遮断されて停電のような状況ですね。

このようにNTGには、中枢神経系全般の障害と篩状板(およびその周辺組織)障害の2つの問題が発生している病気なのです。つまり、この2つの領域の再生と修復がNTG治療の大きな目的となります。

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